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東京地方裁判所 昭和46年(ワ)800号 判決 1973年11月06日

原告 岡博志

原告 岡定恵

原告 岡こう

右三名訴訟代理人弁護士 水上喜景

同 成田宏

同 松村弥四郎

右復代理人弁護士 芝田稔秋

被告 原田泰久

被告 原田誠吾

右両名訴訟代理人弁護士 柏原武夫

同 川村幸信

被告 大成火災海上保険株式会社

右代表者代表取締役 野田朝夫

右訴訟代理人弁護士 赤坂軍治

主文

1  被告原田泰久、同原田誠吾は各自原告岡博志に対し金一、一七一万〇、二三九円、原告岡定恵、同岡こうに対し各金三三〇万二、七八一円およびこれらに対する昭和四六年二月一五日から支払済に至るまで年五分の割合による各金員を支払え。

2  原告らの被告原田泰久、同原田誠吾に対するその余の各請求、被告大成火災海上保険株式会社に対する各請求をいずれも棄却する。

3  訴訟費用のうち、原告らと被告原田泰久、同原田誠吾の関係においては原告らに生じた費用の二分の一は右被告らの負担とし、原告らと被告大成火災海上保険株式会社の関係においては被告大成火災海上保険株式会社に生じた費用は原告らの負担とし、その余は各自の負担とする。

4  この判決は主文第一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一原告ら請求の趣旨

「被告泰久、同誠吾は各自原告博志に対し一、三〇〇万円およびこれに対する昭和四六年二月一五日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。被告大成火災海上保険株式会社(以下被告保険会社という。)は原告博志に対し一、〇〇〇万円およびこれに対する昭和四八年九月一二日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。被告泰久、同誠吾は各自原告定恵、同こうに対し、各三五〇万円およびこれに対する昭和四六年二月一五日から支払済に至るまで年五分の割合による各金員を支払え。被告保険会社は原告定恵、同こうに対し各三五〇万円およびこれに対する昭和四八年九月一二日から支払済に至るまで年五分の割合による各金員を支払え。訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決ならびに仮執行の宣言を求める。

第二被告ら―請求の趣旨に対する答弁

「原告らの各請求をいずれも棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする。」との判決を求める。

第三原告ら―請求原因

一  事故の発生

原告博志は、次の交通事故(以下本件事故という。)によって廃人同様の傷害を受け、岡孝子(以下孝子という。)は死亡した。

(一)  発生日時 昭和四五年三月二八日午前四時二〇分頃

(二)  発生地  静岡県沼津市鳥谷町東名高速道路上(下り線東京起点一〇六キロメートルの地点)

(三)  加害車  大型貨物自動車(岡一さ三六五六号、以下被告車という。)

運転者  被告泰久

(四)  被害車  小型貨物自動車(足立四を二三九号)

運転者  原告博志

同乗者  孝子

(五)  態様   被告車が被害車に追突した。

二  責任原因

(一)  被告泰久は、被告車の運転上の過失によって本件事故を発生させたから、民法七〇九条により、原告らの損害につき賠償義務がある。

(二)  被告誠吾

1 被告誠吾は、被告車の所有者(使用名義人、自賠責保険契約の名義人)であって、かつ、被告泰久の父であって、同被告と同居しているから、同被告に被告車の運行を許容したもので、同車の運行を管理支配し得る機会があり、同車の運行に関し同被告を指示監督すべきものであるので、自己のため運行の用に供していたものとして、自賠法三条により原告らの損害につき賠償義務がある。

2 また、被告誠吾は、原告らに対し、昭和四五年三月二九日被告泰久が本件事故により原告らに対して負担する損害賠償債務について同被告と連帯して支払う旨約したから、同被告と連帯して支払の義務がある。

(三)  被告保険会社

1 被告保険会社は、昭和四四年九月三〇日被告泰久との間で被告車について被保険者は被告泰久、保険限度額を一、〇〇〇万円とする対人賠償責任保険契約を締結した。

2 原告らは被告泰久に対し後記の損害について賠償請求権を有するところ、被告泰久は、右保険金請求権のほかほとんど資産を有せず、右保険金請求権を行使しない。

3 そこで、原告らは被告泰久に代位して、被告保険会社に対し右保険金の支払を請求する。

≪省略≫

第四請求原因に対する答弁

一  被告泰久、同誠吾

請求原因一項の事実中、原告博志の受けた傷害が廃人同様となる程のものであることは否認し、その余は認める。

同二項(一)につき、被告泰久の過失によって本件事故が発生したことは認め、同(二)の事実は争う。被告誠吾は被告泰久の父であり、被告車は被告誠吾の使用者名義、自賠責保険の締結も同被告名義でなされたことはあるが、それは被告泰久が被告車を購入して雑貨商を始めるにあたり、同被告が未成年であったため、便宜上被告誠吾の名義で被告車を購入したにすぎず、被告誠吾は当時タバコ小売人協同組合に勤務していて、被告泰久の右雑貨商の業務とは無関係で、被告泰久は、独自に右業務を行なっていたものであるから、被告誠吾は被告車の運行供用者ではない。

≪省略≫

二  被告保険会社

請求原因一項、同二項(一)、同(三)1の各事実は認め、同(三)2の事実中、被告泰久が右保険金請求権を行使しないことは認め、その余は争う。

同三項の事実中、(一)6および(三)4の各事実については、被告泰久、被告誠吾の答弁と同じ、その余は争う。

第五被告泰久、同誠吾―抗弁

被告泰久は、原告定恵、同こうに対し本件事故による損害の填補として、三六万九、〇〇〇円(前掲三〇万円を含む。)を支払った。

第六被告保険会社―抗弁および反論

一  (被告車の用途変更による免責)

被告泰久と被告保険会社間の前示保険契約に適用される自動車保険普通保険約款(以下普通約款という。)二章三条二項は、「当会社(被告保険会社をいう。)は、自動車が保険証券に記載された以外の車種または用途に変更されまたは使用されている間に生じた損害を填補する責に任じない。」、同三章三条一項は、「保険契約締結後下記の場合においては保険契約者または被保険者は遅延なく書面をもってこれを当会社に通知し、保険証券に承認の裏書を請求しなければならない。」、同項二号は、「自動車の車種または用途を変更しようとするときまたは自動車登録番号(登録番号に準ずるものを含む。)が変更されたとき。」、同条二項は、「当会社は、前項の事実が発生したときからその事実がやむまで(前項の承認裏書請求書を受領した後を除く。)の間に生じた損害をてん補する責に任じない。」と各規定しているのであるが、被告泰久は、被告保険会社との間で右保険契約において被告車の用途は自家用、従事業種は販売と定め、その定めにもとづいて算定された保険料の支払を約したにもかかわらず、被告保険会社に対し普通約款三章三条の規定にしたがって被告車の用途の変更の承認請求をすることなく、被告車を有償運送に使用し、その間に本件事故を惹起したものであるから、被告保険会社は、右普通約款の各規定により原告らの損害を填補する義務はない。

二  (保険金請求権の不発生もしくは履行期未到来)

被保険者が、対人賠償責任保険契約にもとづいて保険金請求権を行使するためには、被保険者と賠償請求権者との間で損害賠償責任額が確定していることを要するから、原告らと被告泰久との間で右責任額が確定していない現段階では、右被告は本件保険金請求権を行使し得るものでなく、原告らが被告泰久を代位して保険金請求権を行使するときも、右の理は異ならない。また、被告保険会社は、原告らと被告泰久との間で右責任額が確定し、かつ、保険金を支払うべき理由があるときは、その支払を拒むものではないから、原告らは被告保険会社に請求する必要はない。

第七原告ら―被告らの抗弁等に対する認否および主張

被告泰久、同誠吾の抗弁につき、三〇万円越える支払があったことは否認する。

被告保険会社の抗弁等一項の事実中、普通約款に、被告保険会社の主張のとおりの各規定が存し、右普通約款が本件保険契約に適用あることは認め、その余は争う。被告泰久は、被告車ほか四台の自動車をもって運送業を営んでいたことは窺えるが、本件事故は、訴外茶谷からの依頼による運送を終え、自宅へ帰る途中、遊びを兼ねて東名高速道路を走行中に発生したものであるから、普通約款二章三条二項には該当しない。

被告保険会社の抗弁第二項は争う。

第八証拠関係≪省略≫

理由

一  請求原因一項記載のとおり、本件事故が発生し、原告博志が傷害を受け、孝子が死亡したことは全当事者間で争いがない。

二(一)  本件事故が被告泰久の運転上の過失によって発生したことは全当事者間で争いがないから、被告泰久は、民法七〇九条により、本件事故によって原告らに生じた損害(相続分を含む。)を賠償する義務がある。

(二)  被告誠吾の義務について、原告らと同被告との間で判断する。

成立に争いのない甲第一四号証および被告誠吾の本人尋問の結果によれば、同被告は、昭和四五年三月二九日原告らに対し、被告泰久が本件事故により孝子を死亡させ、原告博志に傷害を負わせた不法行為にもとづく損害の賠償義務について、被告泰久と連帯して支払の責に任ずる旨約したことが認められ、右認定に反する証拠はない。右甲第一四号証(念書)の名宛人は形式上原告である岡定恵となっているが、≪証拠省略≫によれば、右書面の趣旨は、被告誠吾は、本件事故による損害賠償金はすべて原告定恵に支払い、他の者に支払う意思はないというものではなく、右損害賠償請求についての正当な権利者に支払うとの趣旨と解すべきである。したがって、被告誠吾は原告らの損害(相続分を含む。)について被告泰久と連帯して支払う義務がある。

(三)  被告保険会社の義務について、原告らと同被告との間で判断する。

被告泰久が、その過失によって本件事故を発生させ、民法七〇九条により、原告らの損害(相続分を含む。)につき賠償義務があることは既述のとおりであり、被告泰久は、被告保険会社に対する本件保険金請求権を行使しないことは当事者間に争いがなく、≪証拠省略≫によれば、被告泰久は右保険金請求権のほかはほとんど資産を有しないことが認められ、右認定に反する証拠はない。右の各事実によれば、原告らは被告泰久に代位して被告保険会社に対して本件保険金請求をなし得る地位にあるものというべきである。

被告保険会社は、被保険者が対人賠償責任保険契約にもとづいて保険金請求をするには、被保険者と賠償請求権者との間で賠償額が確定していることを要し、また、そのときは、被告保険会社において故なく保険金の支払を拒むものではないから、原告らは代位請求する利益がないと主張するが、本件のような債権者代位による保険金請求訴訟においては、保険金請求の前提としては、被保険者が賠償請求権者へ支払うべき賠償額は被保険者と保険会社との間で確定されることを要し、かつ、右をもって足りるというべきであるから、被告保険会社の右各主張はいずれも採用しない。

つぎに、被告保険会社の保険金支払義務についてみると、請求原因二項(三)1(保険契約の締結)の事実は当事者間に争いがない。

そこで、被告保険会社の免責の抗弁につき判断する。

本件保険契約に適用される普通約款に被告保険会社の主張のとおりの各規定が存することは当事者間に争いがなく、≪証拠省略≫によれば、被告泰久は、被告車についての被告保険会社との間の本件保険契約において、被告車の用途および車種を自家用普通貨物自動車とし、また、対価を得て運送行為を行なわないことなどを特別告知事項として、右用途および車種を前提に算定された保険料の支払を約し、右契約についての保険証券にその旨記載されたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

さらに、≪証拠省略≫によれば、つぎのとおりの事実が認められる。

被告泰久は、昭和四四年頃から肩書住所を本拠として、訴外林原商事株式会社等の第三者(右林原商事株式会社以外の者の名称は証拠上不明である。)の依頼にもとづき、多数回にわたり貨物自動車で水飴・砂糖等の物品を岡山市内から他地域へ運送し、右会社等からその対価たる運送賃を取得していたこと、

同被告は、昭和四四年九月二九日被告誠吾名義で岡山日野自動車株式会社から大型貨物自動車である被告車を買入いれ(その所有権は売買代金完済まで右会社に留保する約定がある。)、その頃から被告車を含め少くとも二台の貨物自動車で右の有償運送を継続し、そのために友人等を運転手または助手として使用していたこと、

同被告は、本件事故発生の以前、訴外安東幸一に対し、有償運送の仕事のあっ旋を依頼していたところ、右安東の紹介により、同人の遠縁にあたる訴外茶谷との間で、同被告が綿糸を貨物自動車で新潟県へ運送し、訴外茶谷はその運賃を支払うとの約旨のもとに、同被告は、訴外宮田宗哲と共に被告車で綿糸を目的地まで運送し、その帰途東名高速道路を運行中に本件事故を発生させたものであること。以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

右各事実によれば、被告泰久は、被告保険会社との間の本件保険契約において被告車の用途を自家用と約したにもかかわらず、本件事故当時、業として他人の求めに応じて被告車を用いて有償で綿糸を運送したものであるから、被告泰久が道路運送事業を経営するにあたり必要とされる道路運送法による運輸大臣の免許を受けているかどうかにかかわらず、被告車を営業用に使用したものと認めるのが相当である。

原告らは、本件事故当時被告泰久は綿糸運送を完了し、帰途遊びを兼ねて遠回りした道路を運行中に本件事故が発生したから、事故当時は営業用の使用でないと主張するが、右認定事実によれば、被告泰久は、目的地である新潟県から事業の本拠地である岡山県へ帰る経路として東名高速道路を利用したもので、他に特に目的があったと認めるに足りる証拠はないから、事故当時被告車を営業用に使用していたというべきで、原告らの右主張は採用しない。

そうすると、本件事故による原告らの後記損害(相続分を含む。)は、本件保険契約の保険の目的である被告車が保険証券に記載された以外の用途に使用されている間に生じたものといわざるを得ないから、被告保険会社は、普通約款二章三条二項によって、原告らの損害を填補する責に任じない。したがって、原告らの被告保険会社に対する請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。

三(一)  原告博志の損害について、同原告と被告泰久、同誠吾との関係で判断する。

≪証拠省略≫によれば、原告博志は、本件事故により後頭部・背部裂創、頭部外傷、頸椎損傷の傷害を受け、事故当日から昭和四五年四月六日までの間米山病院に入院し、さらに、同日から同年九月二二日までの間東京労災病院に転入院し(その間一日だけ通院した。)、各治療を受けたが、東京労災病院に入院したときは、外傷性右不全麻痺、外傷性頸性頭痛の各症状が存在し、同病院での診断の結果、脳波に低電圧非律動波の混入、気脳写で左皮質委縮像、軽度の平衡機能障害、常在性右耳鳴が認められ、同病院を退院するとき(昭和四五年一一月二日)においても、右不全麻痺、平衡障害、頭重感の各症状が残存・固定し、容易に軽快の見込がなかったこと、また、昭和四八年四月現在でも、頭部・項部・肩甲部の各痛、右側不全麻痺(左運動領皮質の破壊による。)、特に上肢筋力の低下、平衡機能障害、耳鳴りの症状が残存し、右時点までの経過からして、今後とも継続するものと診断されたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

以上の事実にもとづいて、原告博志の損害額を算定する。

1  治療費 九一万六、〇三六円

≪証拠省略≫によれば、原告博志は米山病院および東京労災病院における治療費として右記金額を支出したことが認められる。

2  付添看護費 二万一、八三〇円

原告博志の右傷害程度および右傷害にもとづく各症状と≪証拠省略≫によれば、原告博志は、米山病院に入院していた間付添人による看護を要する状態にあったものと認められ、≪証拠省略≫によれば、原告博志は、右の一〇日間付添人による看護を受け、その費用として二万一、八三〇円を支出したことが認められるので、右損害は本件事故と相当因果関係に立つものというべきである。

3  入院雑費 三万五、八〇〇円

前示のとおり、原告博志は、本件傷害の治療のため米山病院および東京労災病院に一七九日間入院したものであり、その間日用品購入等の雑費として平均して少なくとも一日二〇〇円の割合で支出をしたものと推認され、右支出は本件事故による損害と認められる。

4  休業損害および労働能力喪失による損害 九八六万六、三二六円

≪証拠省略≫によれば、原告博志は、事故当時三九才(昭和五年七月九日生)の男子で、事故前は健康であったこと、事故当時運送業を自営し、昭和四四年一月から同年一二月までの間に一二九万三、九一二円の収入を得ていたことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。右事実によれば、同原告は、六三才に達するまで健康人として運送業を継続し、年間少くとも右記金額の収入を得ていたことは確実といえるところ、前示治療経過等に関する認定事実によれば、事故日から昭和四五年一一月二日までの治療のため入・通院し、右の運送業を全く行なうことができず、その頃症状が固定し、以来後遺症状のため運転行為を要する運送業には従事し得ず、転職の已むなきに至ったものであるが、前示後遺症状の内容、程度に鑑みると、原告博志は、本件事故の日から昭和四五年一〇月末日まで一〇〇パーセント、同年一一月から二三年間は五〇パーセントの各割合で労働能力を喪失したものと認めるのが相当であるから、右休業損害および労働能力喪失による損害額を、年五分の中間利息を判決言渡日まではホフマン式、それ以降はライプニッツ式で控除して、訴状送達日の翌日(昭和四六年二月一五日)の現価として算出すると右記金額となる。

5  慰藉料 二六〇万円

原告博志の前示治療経過および後遺症状の内容、程度に鑑みれば、原告博志が本件事故により多大の精神的苦痛を蒙ったことが推認され、事故態様等本件に顕われた一切の事情を斟酌すると、原告博志の慰藉料は二六〇万円が相当である。

6  損害の填補 二七二万九、七五三円

原告博志が、請求原因三項(一)6のとおり、損害の填補を受けたことは当事者間に争いがない。

7  弁護士費用 一〇〇万円

以上のとおり、原告博志は、被告泰久、同誠吾の各自に対し各一、〇七一万〇、二三九円の支払を求め得るところ、弁論の全趣旨によれば、右被告両名は右の支払をしないので、原告博志は本件請求手続を弁護士である同原告代理人らに委任し、その費用および報酬として二〇〇万円を支払う旨約したと認められるが、本件審理経過、事件の難易、原告博志の損害額に鑑みると、右のうち一〇〇万円(昭和四六年二月一五日の現価)が本件事故と相当因果関係に立つ損害と認めるのが相当である。

(二)  孝子の死亡による損害について、原告定恵、同こうと被告泰久、同誠吾との関係で判断する。

請求原因一項記載(原告博志の傷害の程度を除く。)の争いのない事実、≪証拠省略≫によれば、孝子は、本件事故により頭部外傷第四型、頭蓋底骨折、頭頂部裂創等の傷害を受け、直ちに米山病院に収容され、治療を受けたが、事故の約二週間後に死亡したことが認められる。

以上の事実にもとづいて、孝子の死亡による損害額を算定する。

1  治療費(孝子) 三万四、八五〇円

≪証拠省略≫によれば、孝子は、米山病院における右治療のため、三万四、八五〇円の支出を要したものと認められ、右は本件事故による孝子の損害というべきである。

2  得べかりし利益の喪失による損害(孝子) 六六九万〇、一三二円

≪証拠省略≫によれば、孝子は、昭和一三年五月一五日生(事故当時三一才)の独身女子で、生前は健康であったこと、昭和四五年一月にそれまで勤務していた大和生命保険相互会社を退職し、事故当時無職であったが、右会社に勤務していた昭和四四年度においては給料および賞与として合計七五万二、六五五円の収入を得ていたもので、事故当時においても他の職業に就くため準備中であったことがそれぞれ認められ、右認定に反する証拠はない。

右各事実と≪証拠省略≫によれば、孝子は、事故当時において、今後長期間にわたって一定の職業に就き、自己の生計を立てることを予定していたこと、大和生命保険相互会社に勤務していた時の右年収入額は、当時の同年令の女子労働者(パートタイム従事者を含む。以下同じ。)の平均賃金額(賃金センサスによる。なお賃金センサスの内容は当裁判所に顕著である。)の一・四倍を越えるものであることがそれぞれ認められ、これらの事実と孝子の年令、職歴および独身であることに鑑みると、孝子は、右稼働可能な期間少なくとも、昭和四八年度賃金センサスの同年令女子労働者の平均賃金額と近似する、原告ら主張の毎月収入額六万二、七二一円(孝子が大和生命保険相互会社から得ていた右七五万二、六五五円を一二で除したものである。)を基礎にして算出した額の収入を得たことが確実であることが認められる。また、孝子の年令、家族構成、収入額等に鑑みると、孝子が生存していれば要する生活費等の要支出額は、収入額の五割相当額と認めるのが相当である。以上にもとづいて、年五分の中間利息は判決言渡時まではホフマン式、それ以降はライプニッツ式で控除して、孝子の得べかりし利益の喪失による損害額を昭和四五年二月一五日の現価として算出すると右記金額となる。

3  相続による承継

孝子が、原告定恵、同こうの三女であることは当事者間に争いがなく、≪証拠省略≫によれば孝子は、死亡当時配偶者および子はなかったことが認められ、右によれば、孝子の法定相続人は原告定恵、同こうのみであるから、右原告両名は、本件事故による孝子の前記1および2の損害賠償債権を法定相続分(各二分の一)に応じて、各三三六万二、四九一円を相続により取得したものと認められる。

4  葬儀費用 各一七万五、〇〇〇円

≪証拠省略≫によれば、原告定恵および同こうは、孝子の葬儀を行い、その費用(事故当日およびその翌日の米山病院への往復交通費、仏具購入費を含む。)として三五万円以上を支出したと認められるが、孝子の年令、社会的地位等に鑑み、右のうち三五万円が本件事故と相当因果関係に立つ損害と認めるのが相当である。

なお、原告定恵、同こうは、米山病院までの交通費一万六、一一五円の支払を求めているが、原告博志の関係ではその入院雑費として、孝子関係では葬儀費として各支出を要したものと認め、右各損害額を算定したものであるから、右以外に交通費として原告定恵、同こうの損害と目すべきものはない、というべきである。

5  慰藉料 各二〇〇万円

孝子、原告定恵、同こうの各年令(≪証拠省略≫によれば、定恵は明治三六年一二月八日生、こうは大正一年一一月二四日生であると認められる。)、家族関係、本件事故態様等に鑑みれば、原告定恵、同こうが孝子の死亡によって少なからぬ精神的苦痛を受けたことは容易に推認されるところで、本件に顕われた一切の事情を斟酌すれば、原告定恵、同こうの慰藉料は各二〇〇万円と認めるのが相当である。

6  損害の填補 各二五三万四、七一〇円

原告定恵、同こうは、本件事故による損害(相続分を含む。)の填補として、被告誠吾から三〇万円の支払を受けたこと、自賠責保険から四七六万九、四二〇円を受領し、右合計五〇六万九、四二〇円の各二分の一を各損害の填補にあてたことは当事者間に争いがなく、被告誠吾が右原告両名に対し右三〇万円を越えた金員を弁済したと認めるに足る証拠はない。

7  弁護士費用 各三〇万円

以上のとおり、原告定恵、同こうは被告泰久、同誠吾の各自に対し、各三〇〇万二、七八一円の支払を求め得るところ、弁論の全趣旨によれば、右被告両名は右の支払をしないので、右原告両名は本件請求手続を弁護士である右原告ら代理人らに委任し、その費用および報酬として両名合計一三九万円を支払う旨約したと認められるが、本件審理経過、事件の難易、右原告両名の各損害額に鑑みると、右のうち各三〇万円(昭和四六年二月一五日の現価)が本件事故と相当因果関係に立つ損害と認めるのが相当である。

四  結論

以上のとおり、被告泰久、同誠吾は各自、原告博志に対し、一、一七一万〇、二三九円およびこれに対する本件訴状送達日の翌日であることが記録上明らかな昭和四六年二月一五日から支払済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金、原告定恵、同こうに対し各三三〇万二、七八一円およびこれに対する右昭和四六年二月一五日から支払済に至るまで右と同割合による遅延損害金を支払う義務があるから、原告らの被告泰久、同誠吾に対する本訴各請求は右の限度で認容し、その余の請求は各棄却し、被告保険会社に対する原告らの各請求はいずれも失当であるから棄却し、訴訟費用については民訴法八九条、九二条、九三条、仮執行の宣言については、同法一九六条一項を各適用し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 高山晨 裁判官 大津千明 大出晃之)

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